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薬剤師のメソッド

進学、就職、国家試験、転職など薬剤師の人生についていろいろ

病気という言葉に甘え、治療から逃げている患者さんたち

仕事

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私たち薬剤師のような医療従事者は、患者さんを相手にする仕事です。患者さんの病気の回復に尽力するのが私たちの使命です。

 

医師、薬剤師、看護師…それぞれ医療従事者によって手掛ける領域は異なりますが、最終目的は「患者さんの回復、生活の質の改善」であることに変わりません。各々の専門領域で患者さんに健康になっていただくための提案をさせていただいています。

 

しかし、病気というのは「治してもらう」ものではありません。まずは患者さん自身に「治したい」という意思を持ってもらわないと、真の意味での治療は始まりません。病気を治すのは医師でも薬でもなく、患者さん自身の気持ちから始まるものだと、私は思います。

「病院に行っているんだから治るでしょ」

先日、医師の知人からこのような話を聞きました。

糖尿病の治療をされている患者さん。SU剤、DPP-4阻害剤、メトホルミン、αーグルコシダーゼ阻害剤……まあ、糖尿病治療に用いられるスタンダードな薬剤はだいたい服用されている患者さんです。HbA1c値も基準値をとっくに突破しており、このまま数値が下がらないようであればインスリン治療も始めなければならない、という段階にありました。

 

しかし、患者さんにはどうにも治療の意識がない。自分が糖尿病であるということは認識しており、「治さなければ将来的に心血管性疾患や脳疾患、がんなどの罹患リスクが上がり、透析治療も導入しなければならない」ということも、医師の口から説明しているにもかかわらず、治療に身が入らない。甘いものを食べてはいけないと繰り返し指導しているにもかかわらず、「どうしても食べちゃうのよね~」と食後のアイスやケーキを平気でたいらげる。

 

もう若くはない患者さんですし、今の生活が将来の予後を確実に悪くするものであることは知っているはずなのに、どうして食事療法も運動療法も真剣にやろうとしないのか。知人は頭を悩ませていました。そして、その理由を患者さんに聞いたところ「病院にいつも行っているんだから大丈夫でしょ。病気を治すために医者がいるんだから、病院に行っていれば糖尿病は治るでしょ」とおっしゃったのです。

 

この言葉には、医療従事者と患者さんの間にある大きな溝を感じさせられました。私たち医療従事者は薬を処方したり、その効果やリスクを説明したりすることはできますが、患者さんの生活を四六時中監視することはできません。

 

日々の生活の中で、「病気を悪化させないためにセルフコントロールする」ことができるのは患者さんだけなのです。私たちは患者さんに「生活指導」することはできますが、「生活強制」することはできません。そこまでしろというのなら、患者さんには入院してもらうほかありません。

 

自分の病気を治せるのは自分だけ

私もかつて仕事で心と体を壊し、長らく治療を続けていた時期がありました。

method-of-pharmacist.hatenablog.com

 

さまざまな診療科に通いましたし、薬を飲んでは変更し、飲んでは変更し…なかなか自分にフィットする治療法が見つからず、試行錯誤する日々でした。

しかし、私は一般的な患者さんと比較すると、わりかし早く心身を回復させることができました。それは私自身が薬剤師であるということも関係しますが、「早く治そう」と治療に積極的だったということも大きかったと思います。

 

いっときは「ああもう、治んないわ。どうにでもなれ、知ったことか」と治療に消極的だった時期もあります。そんなときは薬だけ飲んで、あとの生活習慣はきわめて適当だったのを思い出します。医師の言うことひとつひとつにも「そんなのやって治るわけないじゃん」とひねくれていました。

 

ただ、そんな風に治療に消極的だった時期って、やっぱり症状が改善しなかったんですよね…。結局のところ、腹をくくって「よし!治すぞ!」と決意し、生活習慣を根本から改善し始めたころから、症状は劇的に改善するようになりました。それを医師に伝えたところ、医師も同意してくれました。

 

「私たちには今の患者さんに適切な薬を処方することや、生活のアドバイスをすることしかできない。実際に日々の生活で、病気から立ち直るエネルギーを培っていくのは、患者さん自身の意思にかかっている」

と医師は言っていました。

 

この経験で、私はつくづく「病気を治すのは自分の力」であることを実感しました。たとえば風邪をひいて、風邪薬を飲んだとしても、外を歩き回っていれば治るものも治りませんよね。本当に治したいのであれば、部屋でちゃんと寝て、脱水しないように水分補給に気を使って、余分な体力を使わないように休息するのが一番であるわけです。結局、病を治す一番の手掛かりは、患者さん自身の治療参加意欲なのです。

 

「病気である」ことに立ち向かう勇気

もちろん病気であることはとてもつらく、苦しいことです。その苦痛は非常に大きく、現実から逃げてしまいたい気持ちもわかります。しかし、何もかも医師頼みにして、自分の生活を自分で管理する力まで失ってしまっては、治せるものも治りません。ましてや、「自分は病気だから…」と言い訳して、本来できるはずのことから逃げているようでは、いつまでたっても健康になんかなれません。

 

病気の治療に医薬品が大きな効果を示すのは客観的にも証明されており、「薬を飲むこと」がまずは守っていただきたいことであるのは確かですが、それ以前の「患者さんの日々の生活」に関しては、患者さんご自身に改善していただくのが一番です。

 

我々はアドバイスこそできますが、強制的な生活改善はできません。何よりも患者さん自身に「このままじゃいけない」「私は健康になるんだ」と意思を持っていただかないと、根本的な回復は実現しません。生活習慣病のような、長期的な治療が必要になる疾患だとなおさらです。

 

治療は医薬品だけではなく、日々の運動、食事の改善も含まれます。患者さんが「治したい」と前向きに取り組んでいただいたとき、治療のスピードは一気に加速します。どうか、「病院にさえ行っていればどうにかなるでしょ」と思わず、少しだけご自身の病気について関心を持ってみてください。それだけで、解決しなかったことが解決する場合があります。

 

病を治す一番の力は、患者さんの意思です。